2010年10月23日土曜日

Peregrina a Santiago(9)




「私についてきて」とカトリンは言った。

20代の学生だろうか。「アップダウンの道ばかりで疲れたわ〜。私は今日ここに泊まるつもり。今からアルベルゲに行くから一緒についてくればいいわ」。カトリンは英語でそう話し、沿道で出会った奥さんに、巡礼宿アルベルゲへの道をスペイン語で聞いている。日本語で「こんにちは」「ありがとう」は何て言うの?と聞くので、教えるとさっと発音してみせる。「すごいな、何か国語も話せるし、日本語の発音もばっちりだよ」「スペイン語はそんなに話せるわけじゃないのよ」と照れるカトリン。

「あ、そうだ、私たちのザックはドイツ製のドイターだよ!」。あっちゃんと私は、背中のドイターをカトリンに見せる。「ドイツ品質はナンバーワンでしょ?」とカトリンは自慢したが、「でも、私のザックはパパから借りてきた、お古だけどね」とはにかむ。ドイツの若い女性は本当にチャーミングだと思う。

「私の名前はヨシコ」「私はアツコ」「うーん、聞いたことのない響きだなぁ。発音が難しいね」「ヨシコってのはね、日本の女性にはよくある名前で、ドイツでいうなら、まぁガブリエルだね。私は日本のガービ(ガブリエルの愛称)なわけよ」。「なるほど!納得した」とカトリンは笑う。

坂道の途中で、一人の若い女性が疲れて道端に座り込んでいた。「どうしたの?どこからきたの?」とカトリンが尋ねると、同胞だったらしい。二人がドイツ語で話し始めたので、私たちは先にアルベルゲに向かった。

アルベルゲの玄関にはハエがぶんぶん飛んでいる。実はこの先の道中も、ずっとハエに追われる毎日が続くのだが、この時は、ここがたまたま不潔でハエが多いんだろうと私は決めつけていた。オスピタレロ(アルベルゲの世話人)は長電話中だ。受け付けに客が待っていても、のんびり電話を続ける。スペイン時間がゆったりと流れる。

「どうする?ここに泊まる?」「まだ時間は早いし、少しでも歩こうか」。あっちゃんと協議の末、オスピタレロに巡礼手帳への最初の手続きだけお願いした後、この街を去ることにした。

「カトリン、私たち、行かなくちゃ。よい巡礼をBuen camino そしてよい旅をund gute Reise!」。スペイン語とドイツ語で別れを告げると、「ありがとうVielen Dank!」と歯切れのいいドイツ語が返ってきた。

街のレストランでピザと野菜サンドイッチ、オレンジジュース、コカコーラ(一人7ユーロ相当)で腹ごしらえをし、1440分、いよいよ巡礼をスタート。

黄色い矢印が、道路や曲り角の壁に描かれているので、道を間違うことはない。四国の遍路道より、うんとわかりやすい。サンティアゴの巡礼道自体が世界遺産に登録されている。スペイン語を知らない、スペインの地理に疎い巡礼たちがきても、ここなら不安なくサンティアゴ・デ・コンポステラに向かうことができる。この安心感は最終日まで揺らぐことはなかった。

ピーカンの空のもと、標高500メートルの道を進む。川にかかる橋のたもとには、石の巡礼像が立っている。私は今、巡礼として歩いているんだなぁ、この道は何世紀も同じ顔で巡礼を迎えてくれたんだ・・なんだか顔が立松和平になってくるではないか。

国道に沿って歩き、途中で国道を離れて細い道に入る。16時、ペレへPerejeという小さな街に到着。

朽ち果てたような小さな教会があった。道路脇にある石の壁から蛇口が突き出ている。飲めるのだろうか。教会の前の家で夕涼みをしていたおじいちゃんが叫ぶ。「飲めるよ、飲んでおいき¡Bebe!」

Bebe・・・おお、飲むbeberの二人称()に対する命令形ではないか。うひょひょひょ、命令形の実地訓練だよ、トシさん。スペイン語を教えてくれた先生トシさんの顔を思い出した。

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