

消灯時間が過ぎた後、翌朝7時ぐらいまでアルベルゲの中はまっ暗だ。夜中にトイレに行く時も、朝、歯を磨きに行く時も、各自が懐中電灯で照らしながら行動する。たとえ朝寝坊しようと思っても、6時前から登山用ヘッドランプを頭につけてゴソゴソ動く人がいるので、物音で自然に目が覚めてしまう。
9月13日、巡礼2日目。ランプを照らしながらトイレと洗面、着替えをすませた。6時30分には階下のリビングで、昨日、バルで購入しておいたチョコマフィン、カステラと、カロリーメイト、水で朝食をとる。その横をどんどん巡礼たちが出発していく。老若男女みんな早起きだ。
リビングの片隅に動く小さな陰。うっ、ネズミだ。普段なら「げ〜、ネズミが出る宿かよ」と怒るところだが、人とてネズミとて生きものには違いない。巡礼を始めたとたん、この変わりよう。私ってこんなに寛容な人間だったかしらん。
まっ暗な中、足や腕のストレッチをすませ、7時10分に出発する。あっちゃんは長袖のシャツを、私はレインウエアの上着を着込んでいるが、冷気が肌を刺す。14、5度ぐらいではないだろうか。教会、水飲み場、バル、アルベルゲが面していた細い道路は、サンチャゴ巡礼通りcalle de camino Santiagoという名前だったらしい。道路表示を見ながら、これ以上の名前はないな、と思う。
2本のストックをつきながら道に沿って歩く。車道と歩道の境界には、60センチほどのコンクリート壁があるので、車が横を通り過ぎても危険な感じはしないが、まっ暗な中での巡礼は少々不気味だ。ウエストバックにつけた自転車用ランプで道を照らす。目をこらすと、ぽつぽつとザックを背負った巡礼たちが歩いているのが見える。
ん? ぷぅ〜んと変な臭いが漂ってきた。歩くにつれ、悪臭が近づいてくる。それがピークに達した時に道を照らすと動物の排泄物が。犬だろうか、牛だろうか、馬だろうか。
巡礼には3種類がある。「徒歩」組、「自転車」組、そして「馬」組だ。この歩道を歩いたとするなら、馬に乗った巡礼だろうね。ということで、今回は馬の落とし物と判断する。馬巡礼は、自分の分だけでなく、馬の寝床と食糧も確保しなければならないから、なかなか難しいという。巡礼の統計を紹介しているNPO法人日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会のホームページによると、9月には163人の馬巡礼がサンティア・デ・コンポステラに到着したそうだ。すごいや。
今はサマータイムが導入されている季節で、日の出は8時20分ぐらい。空が明るくなり始めると、もうランプを消しても道がはっきり見える。
コンクリートの道を離れて土の道に入ると、街が近づいてきた。木材を高く積んで乾燥させている。8時5分、トラバデッロTrabadeloという町のアルベルゲで一服。フレッシュなオレンジジュースをいただき、喉を潤す。気温が上がってきたし、体も暖まってきたので、もう上着を脱いでも大丈夫だ。
巡礼手帳にはスタンプを押してもらう。だいたい1日1か所以上が目安で、サリアSarriaという町以降は、1日に少なくても2つ以上のスタンプが必須となる。徒歩巡礼の場合は100キロ以上、自転車巡礼の場合は200キロ以上歩かないと、最終日、サンティアゴ・デ・コンポステラで巡礼証明書を発行してもらえない。本当に徒歩や自転車だけで巡礼して来たかを証明するのがスタンプというわけだ。だから、宿泊したアルベルゲや立ち寄った教会、バルなどでスタンプを押してもらう。店の人が押す時もあるし、カウンターにスタンプが置いてあれば、自分で押せばいい。
四国遍路にはご朱印、サンティアゴ巡礼にはスタンプ。お遍路さんは菅笠、金剛杖を持ち、白衣(びゃくえ)を身にまとう。巡礼は杖(ストック)とひょうたん(ペットボトル)をもち、ほたて貝をぶら下げて歩く。ご朱印やスタンプは、長い道のりの励みになる。お遍路も巡礼も、誰からみてわかる出で立ちをしている。とても共通点が多い。
空海に鍛えられ、サンティアゴに導かれ、私たちは歩く。今日はいよいよ私たちのルートでの難所、オ・セブレイロ峠に入る。
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