

「レストランは19時から」と書いた紙が玄関のドアに貼ってあった。レストラン? ああ、そうか。さっき通り過ぎた小さなバルがこの街、唯一のレストランなのだ。
まずはバルの外に作られた簡易テーブルで、生ビール(カーニャcaña)をぐぐっと飲む。1杯1.3ユーロ(約145円)。夕焼けの空が広がり、涼しい風が吹いてくる。もう1杯、ぐびぐびぐび、ぷはー。「私たちはスポーツドリンクよ」。声をかけてくれた隣席の巡礼たちはアクエリアスを飲んでいる。
夕食の前に、教会を見学することにした。でも、教会のドアには鍵がかかっている。「中を見るのかい?」と、向かいの家の2階からおばあちゃんが声をかけてくれた。さっきの「bebeじいちゃん」の奥さんだろうか。
エプロン姿のおばあちゃんは、大きな鉄製の鍵でサンタ・マリア・マグダレナ教区教会のドアをあける。入ってすぐ左手に聖サンティアゴの石像がある。本堂では、赤いロウソクに灯された火がゆらゆら揺れている。小さな小さな本堂。「こっちがマリア様、こっちがマグダラのマリアよ」。聖人たちの説明をしてもらう。
ここは、20戸ほどの小さな街のコミュニティの中心部でもあるのだろう。レオンのゴージャスなカテドラルとは正反対の信仰の場、その慎ましさに胸がつまる。
この教会、とっても古そうですね、と言おうとしたが、「古い」というスペイン語が出てこない。情けなや。しかたないので、「この教会、若くないね」と言うと、おばあちゃんは大きくうなづく。「ええ、とても古いの。1014年に完成したのよ」と“聞いたような気がする”。数字の聞き取りは苦手だ。
「あなたたち、いつごろサンティアゴに着く予定なの?」「9月21日に到着するつもりです」「まあ!あと9日しかないじゃないの。うーん、ビミョーかも」「ええっ、そんなに遠い?」「そうね、明日から、少しずつ少しずつ歩く距離を上乗せして行きなさいな。そしたらきっと着くわ」
このおばあちゃんのアドバイスが私たちを発奮させた。サンティアゴ・デ・コンポステラへはあと179.2キロ。予想していたより過酷な道なのかもしれない。少しだけ無理をして、前へ前へと進んでいこう。「巡礼旅の最後まで元気に歩き続けられるよう、どうぞ私たちを導き、お守りください」。小さな教会で祈った。
レストランの客はすべてアルベルゲに泊まっている巡礼たち。Menú del día(今日の定食)から、第1の皿、第2の皿をチョイスする。
あっちゃんは、レンズ豆のスープにポークソテー。私は野菜の煮込みにマスのニンニク焼き。これに陶器製カラフェの赤ワインがつく。ワインは一人3杯分はあるだろうか。デザートは二人ともヨーグルトを選んだ。
なかなかおいしいし、野菜をふんだんにとれるのはいいけれど、定食の量はとてつもなく多い。スープや煮込みは、ふだん私たちが食べる量の3倍はある。第一の皿だけで胃袋はいっぱいだよ。ワインがついて1人前10ユーロ(約1100円)というのがスゴイ。
21時30分、マットレスに虫がこないよう、ハッカ油の虫除けスプレーをふりかけ、その上に広げたシュラフにもぐりこんだ。誰のいびきにも、誰の歯ぎしりにも悩まされない、静かな巡礼第一夜だった。
Photo by Atsuko
0 件のコメント:
コメントを投稿